裁判官選任(9) シンガポール最高裁判所の場合

 今日(16日)、シンガポール最高裁で4人の裁判官が任命されました*1。久しぶりですが、少し調べてみると結構変わっていたのでまだあまり咀嚼できていませんが簡単にまとめておきます。

 どこが変わっていると感じたかというと、シンガポールは二審制でありつつ最高裁(Supreme Court)に2つの「裁判所」(Court of Appeal, High Court)がある点です。もちろん日本を前提に考えているから変わっていると感じるわけですし、日本語に訳すとその2つの「裁判所」は上訴法廷と高等法廷と訳されるわけで*2、そう考えると別に変わってはいないのですが、最初英語で見たときはどういうことかと少し混乱しました。

 そして余計にややこしいのは、上訴法廷と高等法廷にそれぞれ「裁判官」(Judges of Appeal, Judges of High Court)がいるのとともにJudicial Commissionerと呼ばれる人たちがいることです。このポストはいくつかの国で設けられており、その権限は国により異なるようですが、シンガポールでは通常の裁判官と同様の権限を有しています。じゃあなにが違うんだというと任期で、通常の裁判官は終身(定年65歳だが延長あり)であるのに対してJudicial Commissionerは任期ありとなっています。Judicial Commissionerから普通の裁判官に昇進することもあります(というか今回の人事がそれです)。憲法では事件処理の促進のために任命することができるとなっています。ちなみに上訴法廷と高等法廷の関係性は、後者からの控訴が前者にいくというものであり*3、裁判官も後者から前者に昇進することもあるようです*4

 シンガポールにおける最高裁判事の任命手続きは、首相の助言に基づく大統領の任命です(憲法95条)。シンガポールは議院内閣制であり、大統領は儀礼的な存在ですが、拒否することもできるようです。また、最高裁長官への諮問も行われるものの、その意見がどれだけ考慮されるかは不明ともされています*5。ここでの大統領と首相の関係の実際はいまいちよくわかりませんが、大統領は現在は公選で、政党に所属することはできませんが、現在のトニー・タン大統領はもともと人民行動党の政治家だったそうです。

 シンガポールでは一貫して人民行動党が議会のほとんどの議席を占め、首相を担ってきています。シンガポール憲法は議会の3分の2の多数で改正できますので、議席の状況と考え合わせると割と簡単に憲法改正ができそうです。実際、ちょうど今読んでいた文献によると、1988年のChng Suan Tze v. Minister for Home Affairs最高裁が国内治安法(Internal Security Act)の下での行政裁量に対する司法審査権限を宣言したとき*6、政府はそれを覆す憲法改正により対応したそうです*7。そうなってくると、任命手続き的に司法の独立性はどうかという問題もありそうですが、それとはまた別種の問題もあるように感じられます。

*1:The Straits Times "4 High Court judges appointed: PMO" (last updated 2017/8/16, last visited 2017/8/17), Today "Four Judicial Commissioners promoted to full Judges" (last updated 2017/8/16, last visited 2017/8/17).

*2:シンガポール日本大使館シンガポールの司法制度の概要ー特に刑事訴訟法を中心として」(2017年8月17日確認)。

*3:もう少しちゃんとした説明としては上掲の在シンガポール日本大使館のPDFファイルをご覧ください。

*4:The Straits Times "3 new appointments to Supreme Court, deputy A-G post for Hri Kumar" (last updated 2017/2/17, last visited 2017/8/17).

*5:Wikipedia "Judicial independence in Singapore" (last visited 2017/8/17).

*6:このあたりまとめるのが面倒なのでとりあえずWikipediaのページを貼りつけておきます。Wikipedia "Exclusion of judicial review in Singapore law" (last visited 2017/8/17).

*7:Gordon Silverstein "Singapore: The Exception That Proves Rules Matter," in Tom Ginsburg and Tamir Moustafa, eds., Rule By Law: The Politics of Courts in Authoritarian Regimes (Cambridge University Press, 2008).