裁判官選任(2) イタリア憲法裁判所の場合

 日本では、通常の裁判所が憲法訴訟も含めてすべての訴訟を扱います。一方で、ヨーロッパ諸国を中心に、特に憲法問題を取り上げる憲法裁判所が設置されている国が多くあります。近隣では、お隣の韓国においても憲法裁判所が置かれています。

 先日、驚きのニュースに触れました。イタリア憲法裁判所の裁判官の任命が難航しているというものです。それだけではさして驚きではありませんが、驚いたのは、議会に上程しては否決され、上程しては否決され、を繰り返した回数。二度あることは三度あるといいますが、イタリアではなんと29回も失敗を重ねているというのです*1。どのぐらいの期間で29回も失敗しているのかわかりませんが、なかなかに異常な事態のように思えます。やはり任命過程に議会が絡んでいる場合、こうしたことが起きやすいのかなと素朴に思ったりもしています*2

 イタリアのシステムは、全容を理解しているとは言えませんが、一般裁判所と憲法裁判所とで異なる手続きをとっています。一般裁判所の裁判官選任は「公務員型」とも言われ*3、裁判官の採用や研修、人事においては、裁判官からなる最高司法会議が強い権力を有しているとされています。内部の昇進においてはシニオリティが重視されているとのことなので、とりあえず大括りでは日本みたいな感じと考えておいてもよいかもしれません(ただし司法官の互選により選出される最高司法会議と、政党勢力と対応した司法部内における派閥の存在は大きな違いですが、ここでの主題ではないのでとりあえず措いておきます)*4

 このように「裁判官による裁判官の管理」をとる一般裁判所に対して、憲法裁判所では、15人の裁判官のうち、3分の1が大統領により、3分の1が議会により、そして残りの3分の1が司法部により任命される、という形をとっています。「公務員型」に対して、「共同任命型」(shared appointment)と表されます*5。裁判官の要件として、司法官としての経験、法学専攻の大学教授の経験、もしくは20年以上の弁護士実務の経験、という3つが設けられています。任期は9年で、再任は不可です*6

 このような制度設計にしている背景には、政治的な偏り(党派性)が生じるのを回避しようとしながらも、同時に民主的アカウンタビリティも果たさせる、というともすれば相反しうる2つの理念を調停しようという発想があったと推測されます。しかし現実は、とりわけ議会による任命に関しては、政党間で配分するような形になっているようです。議会での任命には上下院の合同会議で3分の2の多数(決まらなければ3回目の投票から5分の3の多数)が必要になるため、このような慣習が形成されてきたものと見られます*7

 そうすると、今回の度重なる任命の失敗は、イタリアにおける政党政治の状況という、より広い政治的現象とつながっているように思われます。28回目の失敗の後のANSAの記事は、3人の候補について「マッテオ・レンツィ首相の民主党シルヴィオ・ベルルスコーニ元首相のフォルツァ・イタリアの間で合意されたが、反既成勢力的な五つ星運動の反対に遭い、可決には至らなかった」と対立構図を描写しています*8五つ星運動は、2013年選挙で国政進出をした、コメディアンのベッペ・グリッロを中心とする組織で、下院では第1党、上院でも第2党となっています。28回目の投票の際は、必要な票数が571であるのに対して、上位の候補者から、536票、511票、492票という得票状況でした*9。上下両院合わせて120議席超を有する五つ星運動が同意をすれば十分必要票数に届きます。

 任命権限を政治部門間で分有するというイタリアのシステムは、各国の憲法裁判所によく見られる方式です。ただしどの部門の間で分有するのかは異なりますが、たとえばフランスでは大統領と上下院議長がそれぞれ3人ずつ、スペインでは上下院がそれぞれ4人ずつで司法部が2人、ドイツでは上下院それぞれ8人ずつを選びます*10。類似の方式をとるこれらの国々では、イタリアと同じような状況が見られるのかどうか、見られないとすればそれはなぜなのか、興味深いところです。また機会があれば調べてみたいと思います。

*1:ANSA "29th failure to vote high court judges" (2015/12/3).

*2:たとえば、アメリカの連邦裁判所レベルでは、大統領が任命し、上院が承認するという手続きになっていますが、現時点で66のポストが空席になっています。JudicialNominations.org参照。そうした中で、2013年には大統領指名人事について上院でフィリバスターを打ち切るために必要な票数を60票から51票に減らす改革が行われたそうです。ウォール・ストリート・ジャーナル「米上院、大統領指名人事の承認必要票数を60から51に削減」(2013/11/22)参照。

*3:Mary L. Volcansek "Appointing Judges the European Way," Fordham Urban Law Review, Vol. 34, Iss. 1 (2007).

*4:Maurizio Cotta and Luca Verzichelli, Political Institutions in Italy (Oxford University Press, 2007); Carlo Guarnieri and Patrizia Pederzoli, The Power of Judges: A Comparative Study of Courts and Democracy (Oxford University Press, 2002); 小谷眞男「司法官と法文化」、馬場康雄・岡沢憲芙編『イタリアの政治—「普通でない民主主義国」の終り?』早稲田大学出版部、1999年。

*5:Volcansek, ibid.

*6:初宿正典・辻村みよ子編『新解説 世界憲法集』第3版、三省堂、2014年。

*7:Cotta and Verzichelli, ibid.

*8:ANSA "Grasso warns on top court judges" (2015/11/26).

*9:ANSA "Parliament fails to elect Constitutional Court judges" (2015/11/25).

*10:Guarnieri and Pederzoli, ibid.