裁判官選任(5) アメリカ連邦最高裁判所の場合

 アメリカ連邦最高裁判所の裁判官選任手続きは、大統領の指名、上院の承認です*1。従って、大統領の党派と上院の多数派の党派が異なる場合(いわゆる「分割政府」)、新しい裁判官が任命されるのは困難となります。アメリカ連邦最高裁では、2月にアントニン・スカリア判事が亡くなり、その後任としてオバマ大統領はメリック・ガーランド判事を指名しました。しかし、上記の事情から、オバマ大統領の任期中にスカリア判事の後任が決まることはないだろうと見られ、連邦最高裁は保守派4人対リベラル派4人の拮抗状態になっているとされています*2

 さて、一方のアメリカ大統領選ですが、共和党はドナルド・トランプ民主党ヒラリー・クリントンということで構図が固まってきました。そんな中、18日、ドナルド・トランプが、自らが大統領になった場合に指名する最高裁判事の候補者リストを公表しました。以下のとおりです。

トランプの連邦最高裁判事候補者リスト*3

氏名 現在の所属 ロースクール ロークラーク 年齢
Steven Colloton アイオワ 第8巡回区連邦控訴裁判所 イェール レーンクイスト 53
Allison Eid コロラド 最高裁判所 シカゴ トーマス ~50
Raymond Gruender ミズーリ 第8巡回区連邦控訴裁判所 ワシントン - 52
Thomas Hardiman ペンシルベニア 第3巡回区連邦控訴裁判所 ジョージタウン - 50
Raymond Kethledge ミシガン 第6巡回区連邦控訴裁判所 ミシガン ケネディ 49
Joan Larsen ミシガン 最高裁判所 ノースウェスタン スカリア ~47
Thomas Lee ユタ 最高裁判所 シカゴ トーマス 51
William Pryor アラバマ 第11巡回区連邦控訴裁判所 テュレーン - 54
David Stras ミネソタ 最高裁判所 カンザス トーマス 41
Diane Sykes ウィスコンシン 第7巡回区連邦控訴裁判所 マーケット - 58
Don Willett テキサス 最高裁判所 デューク - 49

 その特徴として、AFPが見出しにしているように、「全員保守派の白人」ということが指摘されています*4。付け加えると、11人中8人が男性です。これらの属性は、共和党大統領による指名であることを考えると、それほど驚きではないのかもしれません。しかし、FiveThirtyEightは、実はこのリストは「非伝統的な諸要素」も含んでいると指摘しています。これは、裏を返せば、従前の連邦最高裁人事の特徴の一部を示すことにもなるかと思いますので、以下にまとめてみたいと思います*5

ロースクール:トランプが提示したリストに挙げられている候補者たちの出身ロースクールは多彩です。このうち、シカゴ、ワシントン・セントルイスジョージタウンカンザス、マーケット、デュークの各ロースクールから、連邦最高裁判事が選ばれたことはないそうです。また、このリストには、これまで19人の判事を輩出してきたハーバードの出身者がおらず、10人の判事を輩出してきたイェールの出身者も1人しかいません。ちなみに、現職の連邦最高裁判事らはハーバードかイェールのどちらかの出身者だそうです。

年齢:トランプの候補者たちはいずれも若く、平均年齢は50歳を少し越えた程度。現在の連邦最高裁の平均年齢は68.75歳であり、1900年以来に指名を受けた人々の平均年齢は54.7歳ということなので、やはり若いということになります。ちなみに、メリック・ガーランド判事は現在63歳です。

ロークラーク:FiveThirtyEightではそれぞれの候補者がどの最高裁判事のロークラークを務めたかも示していますが、同記事は実際にロークラークを務めた6人のうち、保守派の名前が並ぶ一方で、1人だけ中間派とされるアンソニーケネディ判事のロークラークを務めた人がいることに着目しています。



 ちなみに、このリストに載っている11人は、5人が州最高裁判事、6人が連邦裁判所判事です。この6人の連邦裁判所判事の全員がジョージ・W・ブッシュ大統領の下で任命されていることを指摘しているのが、マイアミ・ヘラルド(マクラッチー)の記事です*6。この記事によると、当然といえば当然かもしれませんが、州最高裁判事を務めている5人も共和党知事の下で任命されています。

 最後に、これらの候補者の中で一際注目されているのは、ドン・ウィレット判事です。というのも彼は“Twitter判事”として知られているようで、最近のツイートを見ても結構頻繁にユーモアあるつぶやきをしているのですが、ちょうど1年ほど前にはこんな“俳句”をツイートしていました。

このほかにもトランプを揶揄したツイートを様々しています(こちらのページにまとまっています)。こういった裁判官をリストに入れているあたり、そこまできちっと精査していないのか、少なくとも当人にコンタクトをとったりしているわけではないのでしょうね。ちなみにトランプ本人はこのリストの評判に満足しているようで、「今後数週間のうちにもっと追加するかもね!」とツイートしています。

*1:この点について、こんな論文がありました。端的にまとまっていて便利かもしれません。井樋三枝子「連邦最高裁判所判事指名・承認手続—ソトマイヨール連邦最高裁判事指名・承認をめぐって」『外国の立法』243号、2010年。

*2:USA Todayの5月13日の記事によると、2月以来すでに4回の4対4決定がありました。その場合、私の理解が間違っていなければ、原判決が確定することになるはずです。USA Today "Death penalty divides Supreme Court after Scalia's death" (last updated 2016/5/13, last visited 2016/5/19).

*3:FiveThirtyEight "Trump's Court Picks Are Mostly White Men, But They Are Still Unconventional" (last updated 2016/5/18, last visited 2016/5/19)をもとに作成。各裁判官の簡単なプロフィールについては、New York Times "Donald Trump's Docket: A Look at His Supreme Court Wish List" (last updated 2016/5/18, last visited 2016/5/19)を参照。

*4:AFP「全員保守派の白人・・・トランプ氏、最高裁判事の人事案発表」(last updated 2016/5/19, last visited 2016/5/19)。

*5:FiveThirtyEight, ibid.

*6:Miami Herald "Bush appointed majority of Trump's Supreme Court picks" (last updated 2016/5/18, last visited 2016/5/19).