裁判員制度7年 その課題とは

 5月21日、裁判員制度の施行から丸7年を迎えました。裁判員制度は、そのコンセプトや具体的な制度についてポジティブに評価するかネガティブに評価するか、様々な立場がありますが、戦前陪審制が停止となって以来はじめて設けられた刑事司法参加制度として、画期的なものであるということはひとまず言えるのではないかと思います。しかし、制度が続けられるにつれて、様々な面で問題が指摘されるようになってきたこともまた事実です。たとえば、以下は7年に際して掲載された各メディアの記事ですが、見出しを見るだけでもどのような課題が指摘されているかがわかります。

 

 各メディアで指摘されているのは、見出しから、①選任手続きの欠席率の増加(出席率の減少)、②辞退率の増加、③審理期間の長期化、④二審での判決取り消しの増加、の4つであると捉えることができます。以下、これらについて、最高裁のデータとともにまとめてみます*1

欠席の増加朝日新聞東京新聞が見出しにしているのは、選任手続きへの欠席率の増加です。朝日記事によると、欠席や辞退の増加により裁判が開けなくなるほどの事態にまでは至っていないものの、最高裁は「このまま上がり続ければ、裁判員の年齢や職業が偏り、国民の意見を反映させる制度の趣旨が失われかねない」(刑事局担当者)と危機感を持っています。実際の数字を確認してみると(上記資料表4の「出席率」を100から引いたもの)、制度開始当初は16.9%だった欠席率が徐々に増えてきて、2011年に2割台、2015年に3割台を突破し、今年3月末時点の速報値では36.9%となっています。これを「4割近く」と表現するのはやや強引かもしれませんが、しかしこのまま伸びていくと実際に4割に到達することもそれほど先のことではないかもしれません。東京新聞の記事によると、この原因として、①審理期間の長期化により期間を事前に知らされた段階で参加できないと判断している、②雇用情勢の変化によって人手不足の職場が多くなり仕事を休めない、③制度への関心が低下している、といったものがあると最高裁は考えているようです。

辞退の増加:一方、日本経済新聞や読売新聞が見出しにしているのは、辞退の増加です。辞退率は欠席率と同じ上記資料表4の「辞退率」で確認することができます。これによると、53.1%からスタートした辞退率は、2012年に6割を突破し、2014年が64.4%、2015年が64.9%、そして今年3月末時点の速報値で65.6%となっています。読売新聞の記事によると、長崎地裁では昨年、76.3%という辞退率を記録したそうで、過去最高だったとのこと。これは深刻な数字に見えます。日本経済新聞にコメントを寄せている「裁判員ネット」の大城聡弁護士によると、「企業が社員の参加を認めやすい休暇の仕組みが必要。裁判員の経験が共有されず、意義が広く伝わっていないことも辞退率の増加につながっているのではないか」。たしかに、各記事で触れられているように、最高裁調査によると、裁判員経験者の裁判員制度に対するポジティブな評価には目を見張るものがあります。その経験をどう伝えていくかも大事なことですが、同時に、参加しやすい環境の整備も重要ということでしょう。

審理期間の長期化日本経済新聞は審理日数の長期化についても触れており、産経新聞もこの問題を見出しに持ってきています。こちらもまずデータを確認しておくと(上記資料表7)、平均審理期間は初年度が3.7日(4.7日)だったのに対して、2010年には4.9日(6.6日)、2011年には6.2日(8.5日)と増えていき、昨年には9.4日(13.0日)、そして今年3月末時点の速報値では9.7日(12.9日)となっています(括弧内は否認事件の場合)。平均評議時間(表9)も同様に増えています。これについて、日本経済新聞によると、「じっくり評議をしたいと考える裁判員に配慮し、審理スケジュールを長めに設ける例が増えている」と「ベテラン裁判官の一人」は語っています。つまり、運用を変えたということになるのでしょうか。産経新聞でも同様の指摘がなされており、「『負担軽減のためさっさと終わらせることが主眼だった』(ベテラン裁判官)導入初期に比べ、日程に余裕を持たせたことも長期化の一因とみられる」とされています。余裕を持ったスケジュールにすることそれ自体は悪いことではないのでしょうけれども、それで辞退する人が増えるとそれはそれで問題となってしまいます*2

判決の取り消しNHKは、裁判員裁判で行われた一審の判決が二審で覆されるケースが増えていることを指摘しています。これに関するデータが最高裁ウェブサイトに掲載されているのか、少し見当たりませんでしたが、NHK記事によると、最高裁による調査の「結果、1審の判決に誤りがあるとして2審で取り消された割合は、制度開始前の3年間の平均は9.1%だったのに対して、平成21年は0%、平成22年は0.4%と、裁判員の判断を尊重する姿勢が明確に表れていました。その後は次第に高くなり、平成25年は2.7%、おととしは4.2%、そして去年は6.7%になっていることが分かりました」。しかし、当然ながら、単に二審で覆されたということが問題なのではなく、「高裁の判決が裁判員の判決に対してどのようにおかしいと指摘しているのか検証すべきではないか」(山崎学元判事)ということになるのでしょう。

*1:裁判員裁判の実施状況について(制度施行〜平成28年3月末・速報)」(最高裁判所ウェブサイトに掲載。2016年5月24日確認)。

*2:なお、この点については、昨年の裁判員法改正により、「審判に要すると見込まれる期間が著しく長期にわたる」等の場合にその事件を裁判員裁判の対象から外すことができるようになっています(3条の2)。