裁判官選任(6) ベルギー憲法裁判所の場合

 5月25日、日本を元気にする会の松田公太前代表*1最高裁の視察を行ったそうで、その報告をブログ上で行っています。その中で、松田氏は次のように書いています。

最高裁の人事には「枠」があり、裁判官出身者6名、弁護士出身者4名、検察官出身者2名、行政官出身者2名、法学者出身者1名等となるように選ばれていると言われています。多様な立場の意見を反映するためとのことで一定の合理性があると思いますが、そうだとすれば男女比についても「枠」を設けるべきです(例えば、6対4以上に開きが大きくならないようにする等)。

地方裁判所の女性比率は40%ぐらいになってきているとの説明もありましたが、この流れを最高裁の構成にまでつなげることのできるよう、クオーター制等も含めて考えていくべきです*2

クオータ制は、女性の議員をどうやって増やすかといった文脈で昨今も話題になっているかと思いますが*3、 裁判官人事でクオータ制というのは正直考えたこともありませんでした。

 そこで少し検索してみると、Appointing Judges in an Age of Judicial Powerの編者の1人でもあるロンドン大学クイーン・メアリーのケイト・モールソン教授が、女性の少ないイギリス最高裁判所の文脈で、クオータ制の導入を提案していました*4。その記事の中で彼女は、ジェンダークオータ制は裁判官の任命においても増えてきており、最近ではベルギー憲法裁判所で採用された、としています。そこで、ベルギーの憲法裁判所の裁判官選任手続きについて少し調べてみました*5

 まず、そもそもベルギー憲法裁判所の場合、性別とは別の「クオータ制」がとられています。つまり、言語です。多言語国家として知られるベルギーでは、たとえば政党についても言語圏ごとに政党が存在していますが、計12人の判事からなる憲法裁判所の構成でもフランス語系から6人、オランダ語系から6人と決められています*6。公式ウェブサイトのWelcomeページを開くと、長官からのメッセージとともに2人の顔写真と名前が表示されますが、ベルギー憲法裁判所ではこのように2つの言語グループから構成されているので、長官はそれぞれのグループから1人ずつ、計2人が選ばれています。

 具体的な選任手続きとしては、上院および下院により出席議員の3分の2以上の多数決で交互に提示される候補者リスト(定員の2倍)に基づき、国王によって任命されることになっています。裁判官の要件としては、40歳以上で、少なくとも5年以上の法律関係の職務経験(裁判官、検事、法学教授など)、あるいは議員経験(上下院および共同体や地域の議会)があることとなっています。任命は「終身」とされていますが、同時に70歳の定年が設けられています。ということは最大で30年間は在任できることになりますが、ウェブサイトでざっと見た限り、少なくともこれまでのところ、20年以上在任する人はそれほど多くなく、だいたい十数年で、10年未満の人も少なくないというのが実際のようです(あくまでもざっと見ただけなのでちゃんと計算はしていませんが)。

 さて、問題のジェンダークオータですが、実はベルギー憲法裁判所ではかねてよりクオータ制的なものはありました。というのも、2003年以降、「裁判所は両方の性別の裁判官から構成されなければならない」と定められたからです。しかし、この規定を見ればわかるように、これは最低限のものにすぎず、結局12人のうち1人でも女性がいればよいということになります(そして実際にそのように運用されてきたようです)。結果として、1984年の創設(仲裁裁判所として)以来、女性判事は4人しか誕生していません(いずれも元議員の出身)。さらに、2014年1月まで、同時に2人以上の女性判事が在職していたことはありませんでした。こうした状況に対しては議会の中でも批判があったようで、10年以上にわたって多様性を求める活動が続けられた結果、2014年4月4日、女性(より正確には各性別)の裁判官を少なくとも3分の1以上は含めることを定めた法案が議会で可決されました*7。さらにこれは、公式ウェブサイトによると、「前述の職業カテゴリーの両方において代表されなければならないという理解に基づく」ものであるようです。

 ただし、「女性を3分の1にせよ」と言ってすぐにできるものではありません。最終的に3分の1になるまでは、たとえば男性が2人任命されたらその次に任命されるのは女性でなければならない、というようなやり方をとるようです*8

 ところで、前述のように、ベルギー憲法裁判所判事の任命は議会によるものとなっています。こうしたシステムをとる場合にありがちかもしれませんが、実質的にその任命は政党に割り当てるような形になっているようです。以下、あるブログ記事から引用します。

理論上、これらの諸条件を満たす2人の候補者が上院と下院により、出席議員の3分の2以上の多数決でもって指名され、国王により任命される。実際上、候補者は、そのときに候補者を指名することが認められている政党の支持を得なければならない。憲法裁判所の12のイスは、事実上、政党の間で分配されている。空席を埋める権限がどの政党に与えられるかの計算にはドント式が用いられている。2010年連邦選挙の結果を受けて、2013年の後半には、フラマン系のN-VA〔新フラームス同盟〕がはじめて憲法裁判所の判事を指名した*9

*1:記事の執筆を後回しにしていたらいつのまにか前代表になっていました。前参議院議員になる前に書けてよかったです(縁起でもない)。

*2:松田公太オフィシャルブログ「最高裁判所の視察で感じたこと」(2016年5月26日更新、2016年6月10日確認)。

*3:たとえば、宮畑建志「女性議員の増加を目的とした措置—諸外国におけるクオータ制の事例」『レファレンス』778号、2015年参照。

*4:Kate Malleson "The case for gender quotas for appointments to the Supreme Court" (last updated 2014/5/23, last visited 2016/6/10). ちなみに、イギリスの状況については、最高裁唯一の女性であるブレンダ・ヘイル判事が繰り返し懸念を表明しています。たとえば、Guardian "Lady Hale, supreme court's sole female justice, calls for diversity" (last updated 2013/10/2, last visited 2016/6/10).

*5:以下、特に注記のない限り、"Organization of the Constitutional Court"などベルギー憲法裁判所公式ウェブサイト(2016年6月10日確認)および奥村公輔「ベルギー憲法裁判所」、曽我部真裕・田近肇編『憲法裁判所の比較研究—フランス・イタリア・スペイン・ベルギーの憲法裁判』信山社、2016年を参照。

*6:また、一部地域で公用語になっているドイツ語についても、少なくとも裁判官のうち1人はドイツ語の「十分な知識」がなければならないという形で配慮されています。

*7:Adelaide Remiche "Belgian Parliament Introduces Sex Quota in Constitutional Court" (last updated 2014/4/21, last visited 2016/6/10).

*8:Remiche, ibid.

*9:Belgian Constitutional Law Blog "Ideological balance in US Supreme Court and Belgian Constitutional Court" (last updated 2016/4/20, last visited 2016/6/10).