蓮舫氏「二重国籍」問題について

 昨日、民進党が結党後はじめての代表選を行い、岡田克也氏の後を継ぐ新代表に蓮舫参院議員が選出されました。今回の代表選、特に終盤において最も話題となったのは、言うまでもなく蓮舫氏の「二重国籍」問題です。この問題、様々な問題が絡み合った複合的なもので、専門家ではない私としてはその全容はわかりかねますので、あまり書くことはありません。

 ただ気になるのは、法務省がこの点について見解を示したことです。当初、メディアから漏れ伝わってきたのは、「日本は台湾を国家として承認しておらず、国籍に関しては中国法を適用することになる」という解釈でした。この解釈に従えば、中国国籍法9条により日本国籍を取得した時点で他方の国籍を失うことになりますので、「二重国籍」問題は存在しないことになります。

 しかし、代表選当日(代表選後?)になって、別の解釈が聞こえてきました。つまり、「中国法は適用していない」というものです。法務省は「言葉が足りなかった」と弁解したそうですが、どう言葉が足りなければ真逆に伝わるのかよくわかりません。また、朝日新聞の記事を見ると、しかし日本の国籍事務では台湾を「『中国』として扱っている」となっています*1。 こうなるともうわけがわからなくなってきます。

 

 それでは法務省は本件以前の段階でどのような解釈をとっていたんでしょうか。実は『戸籍時報』という雑誌の「国籍相談」のコーナーで、何度か台湾関係の相談が寄せられています。これに答えるのは「法務省民事局」の職員。一応末尾には個人名も記されていますが、よくある「本稿における見解は個人のものであって所属する組織とは関係ありません」といった類のものではなく(実際そのような記述はありません)、法務省職員が法務省の名で示している見解と理解されます。

 これらの記事で今回のようなケースはどう説明されているのか。ここで3つの記事を順に見ていきます。まず、511号(2000年2月)では、独身の日本人男性が台湾出身の中国人女性Bとの間につくった非嫡出子Aの国籍について質問していますが、この中で次のように述べられています。

 Bは、台湾出身の中国人とのことですが、ご承知のとおり、日本国政府は、昭和47年9月29日の日中国交正常化より前は中華民国政府を中国における唯一の合法政府として承認していましたが、同日以後は、これに代わって中華人民共和国政府を唯一の合法政府として承認しており、台湾を中華人民共和国の一地域としてとらえています。そして、個人が特定国家の国籍を有するかどうかは、専ら当該国家によって決定されるもので、その特定国家は、我が国によって承認された国家でなければならないというのが確立された国際法上の原則となっていますので、中華民国の旅券を所持している台湾出身のBは、国籍の認定に当たっては、中華民国ではなく、中華人民共和国の国籍を有しているものと判断されます。したがって、Aがどの国籍を有しているかは、Bの有する国籍国である中華人民共和国の国籍法により判断することになります(p. 64、強調は引用者)。

他方で、私法関係について適用される法律に関しては、次のように述べられています。

 現在、中国には、前述のとおり、中華人民共和国政府に加えて我が国が承認していない中華民国政府が事実上存在し、分裂国家の状態になっています。両政府は、事実上支配しているそれぞれの地域に独自の法秩序を形成しており、中国全領域を実効的に支配する統一的な法秩序は存在していないと思われます。このような分裂国家状態にある国に所属する国民について、国際私法上適用すべき本国法をどのように定めるかについては、未承認の国家ないし政府の法律が準拠法として指定されるべき資格を有しないとする考え方と、そのような資格を有するとする考え方がありますが、未承認の国家ないし政府の法律であっても、その国において実定性を有するものである限り、国際私法の分野では準拠法として指定されるべきであると考えられます(p. 65-66、強調は引用者)。

というように、国際私法上は台湾法が準拠法として適用される一方、国籍判断については我が国の承認した国家の法、すなわち中国法が適用されるという形になっています(こういう言い方で正しいのかどうかもよくわからないので心許ないですが)。

 

 続いて、579号(2005年1月)です。こちらの相談は、日本人の息子が台湾出身の女性との間につくった非嫡出子たる孫の国籍に関するものです。この記事でも、次のように述べられています。

 台湾には中華民国政府がありますが、我が国は、昭和47年9月29日の日中国交正常化以降、中華人民共和国政府を中国の唯一の合法政府として承認しています。そして、個人の国籍の有無は、我が国によって承認された国家の法令によって決定されます。このため、お孫さんの国籍の判断に当たっては、中華民国ではなく、中華人民共和国の国籍法によることになります(p. 58、強調は引用者)。

さらに同様に、渉外的身分関係については次のように述べられています。

 ところで、先ほど、お孫さんの国籍の判断に当たっては、我が国が承認している中華人民共和国の国籍法が適用されることを説明しました。
 しかし、渉外的身分関係に関しては、未承認の国家の法律であっても現実にその国に存在して実効性を持つものである限り、その国の法律が準拠法となります。これは、渉外的身分関係を円滑に処理するためには、現実に当事者の身分関係に最も密接な関係を有している法律を適用することが必要であると考えられるためです。したがって、お孫さんの身分関係に関しては中華民国の法律が適用されることになります(p. 59、強調は引用者)。

以上から見ても、やはり国籍判断については中国法、身分関係については台湾法ということになります。

 

 最後に、ごく最近出された741号(2016年6月)を見ておきましょう。日本人男性Aが母の兄の長女である台湾人女性Bとの間につくった子Cの国籍についての相談です。結論は同じなのでまた長々と引用するのもアレですが、念のため以下に引いておきます。

 あなたの本国法は我が国の民法になりますが、Bさんの本国法については、国際私法上、当事者の「本国法」の決定は、その法律を公布した国家ないし政府に対する外交上の承認の有無等とは次元を異にし、日本の通説判例は、未承認の国家ないし政府の法律も準拠法として適用し得るものとしていることから、中華民国民法となります(p. 78-79)。

 まず、個人の国籍については、我が国によって承認された国家の法令によって決定されます。このため、Bさんの婚姻の成立については中華民国民法を適用しましたが、Cさんの国籍の判断に当たっては、中華人民共和国国籍法が適用されることになります(p. 79)。

 

  以上の検討から、少なくともこれまで法務省が示してきた公式見解においては、蓮舫氏の国籍は台湾法ではなく中国法から判断されることになり、これに照らせば、日本国籍の取得の時点で他方の国籍は喪失されたと考えることができます。こうした観点からすると、冒頭に挙げた朝日新聞記事に示されている法務省見解も、理解できる気がします(国際私法上は台湾法が準拠法となるが国籍事務においては中国法を適用する)。

*1:朝日新聞国籍をめぐる事務、法務省見解示す」(2016年9月16日更新、2016年9月16日確認)。