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トランプ大統領、連邦最高裁判事にニール・ゴーサッチ氏を指名

 先日、トランプ大統領は昨年亡くなったアントニン・スカリア判事の後任として、連邦第10巡回区控訴裁判所のニール・ゴーサッチ氏を指名しました。ハーバードロースクール出身の49歳。1991年にクラレンス・トーマス判事が43歳で指名されて以来で最も若い指名者だそうです*1。当初はプライヤーの方が有力なのかなとなんとなく見ていましたが、実際の指名の段になって候補から除かれ、ゴーサッチが有力視されるようになっていたように思います。

 すでに指名から日が経っていますが、指名前にも記事を書いており、なんとなく指名後にも書いておかないと気持ち悪いので、たいした情報もありませんが書いておきます。

 ところで、このブログは勉強したことをまとめているだけなので、あまりアクセス数を気にしておらず、はてなブログ備え付けの簡易なアクセス解析をたまに見る程度ですが、指名当日には過去にないほどのアクセス数があって驚きました*2。やはり注目度が高いんですね。日本の最高裁人事について書いたときよりもはるかに多かったです。考えてみれば、新聞の扱いでもアメリカの連邦最高裁人事は大きく載るのに日本の最高裁人事の場合は普通ベタ記事です。両国における裁判所のプレゼンスの違いを如実に表しています。

 ゴーサッチについては以前の投稿で簡単にまとめていますが、いくつか記事を見た感じだとやはり評価が一定しているように思います。つまり、原意主義者(originalist)*3でスカリアとの類似点が多く、ハーバードやオックスフォードで学びアカデミックな能力もあってとても有能で、個別意見が多く、その内容も読ませるものである、といった感じに*4。動くゴーサッチは先日の会見ではじめて見ましたが、たしかにスマートそうな見た目をしています(見た目の問題ではない)。

 そういうわけで、大統領の姉の同僚というおまけまで付いてくるトーマス・ハーディマンよりも、議会では受け入れられやすいのかもしれません。実際、フィリバスター戦術をとろうとする民主党と、フィリバスターを制限するルール改正も視野に入れるトランプという構図の中で、民主党から賛同者が出て承認されるだろうとも予想されています*5*6

 余談ですが、当日、ワシントンDCには最終候補となっていたゴーサッチとハーディマンの両名が来ていました。指名されなかったハーディマンはどのような気持ちでペンシルベニアまで帰ったのか。想像するだけでなんとも言えません。

 上述のように、ゴーサッチはハーバードロースクール出身。また、マーシャル・スカラーとしてオックスフォードでも学んでいます。トランプが大統領就任前に公開したリスト*7を読み解く上で注目されたポイントの1つは、掲載された裁判官の出身ロースクールの多様性だったのですが*8、結局選ばれたのは過去最も多く連邦最高裁判事を供給しているハーバードロースクールの出身。実は、そのハーバードロースクールでゴーサッチがともに学んだのは、他でもないバラク・オバマ前大統領でした。

ゴーサッチはその後、バイロン・ホワイト元判事の、そして現在も現役の連邦最高裁判事であるアンソニーケネディ判事の下でクラークを務めています。任命されればこの2人が同僚になるわけで、これは歴史上はじめてのこととされています。

 

 連邦最高裁判事の人事はやはり一大事で、特にトランプ大統領が当選し、保守派とリベラル派が4対4になっている最高裁の現状からすると、その重要性はさらに増しています。そうしたこともあってか、指名前後には様々なメディアからその人物や見解を紹介する記事が出されました。そのうちのいくつかを見ておきたいと思います。

 SCOTUSblogでは、指名前の記事ですが、主に人物面の紹介がなされています*9。ゴーサッチはデンバー生まれで、1981年、母であるアン・ゴーサッチ・バーフォードがレーガン大統領により環境保護局長官に任命されたことに伴い、10代のときにワシントンDCに居を移します。ハーバードロースクール修了後、オックスフォードで学び、以来、自殺幇助や安楽死についての学術書や論文を執筆。さらにワシントンの法律事務所Kellogg Huberで10年間、概して企業法務に携わり、さらに1年間、司法省で筆頭副司法次官を務めた後、現職の第10巡回区控訴裁判所判事に任命されますが、その際の上院審理で自殺幇助や安楽死に関する見解が取り上げられ、ゴーサッチは個人的信念ではなく法に従う、既存の判例の大部分を支持すると答えたとされています。

 ゴーサッチの指名は、オバマ政権下の裁判官指名(指名した2人ともが女性で、うち1人がヒスパニック)とは異なり、性別や人種面での多様性を最高裁にもたらすものでないものの(出身ロースクールの面でもそうですね)、出身地域や宗教の面では多様性をもたらす、とロイターは指摘しています*10。ゴーサッチは前述のようにコロラド州出身で、最高裁では唯一のプロテスタントとなる模様です*11

 ゴーサッチのこれまでの判決については、The Wall Street JournalやPoliticoの記事で端的にまとめられています*12。また、アメリカの司法記者であるトニー・マウロ氏は、National Law Journalなどに掲載された記事で判決以外の著作も紹介しています*13。刑事司法に特化したサイトであるThe Marshall Projectは、ゴーサッチの刑事事件に関する考え方に着目しています*14。それによると、ゴーサッチはその点でスカリアとあまり違いがなく、たとえばスカリアと同様に大多数の刑事事件で検察や警察の側に立つものの、スカリアと同様に修正第4条に反すると判断するような場合は躊躇なく被告人の側に与するとされています。また、ゴーサッチはスカリアと同様に死刑制度を強く支持しているものの、薬物注射による死刑手続きにおける情報(非)公開の問題や知的障害のある死刑囚の死刑執行の問題などに関する見解はあまり明確でないとしています。


 連邦最高裁判事は終身制ですので、49歳のゴーサッチは少なくともあと30年、場合によってはそれ以上、最高裁に座り続けることになります。最近、例の大統領令に対する連邦裁判所の判決から、アメリカにおける司法の独立性が注目されているように思いますが、終身制はそうした独立性を担保する強力な装置です。ただし、欠点がないわけではありません。終身制ですので、どれだけ歳をとり、職務遂行に支障を来す状況になったとしても、本人に意思がある限りは辞めさせることは難しいわけです*15。また、終身制の場合、任命後に弾劾を除いて外的なチェックを受けることがないのであれば、アカウンタビリティの問題も生じます。

 さらに、指名する側からすれば、できるだけ自分(自派)の影響を長続きさせようとして若い裁判官を指名するわけですが、30年や40年もやっていると考え方が変わることがあります。ハリー・ブラックマンがその例ですが、指名者にとっては誤算でしょう。70歳が定年である日本の最高裁に60代の人物が任命されるのは、その裏返しというわけです。

*1:Reuters "Trump Supreme Court nominee Gorsuch seen in the mold of Scalia" (last updated 2017/2/1, last visited 2017/2/9).

*2:Googleで「ニール・ゴーサッチ」で検索すると、本投稿作成時点ではこのブログが2ページ目に表示されました。そもそもはてなブログはそのあたりにおいて優位であるようにも思いますが。

*3:Guardianの記事におけるローレンス・ソラム教授の端的な説明によると、「原意主義者は、憲法がその執筆当時においてなにを意味していたのかを問い、そしてその意味は不変のものであると、すなわち世界が変わって我々の直面する問題も変わったからといってそれは変化しないと論じる」。The Guardian "Originalism: Neil Gorsuch's constitutional Philosophy explained" (last updated 2017/2/2, last visited 2017/2/9). ゴーサッチは「文言主義者」(textualist)とも呼ばれ、正直あまり違いがよくわかっていませんが、原意主義者の中でも特に制定当時の立法経緯や意図などではなくその条文の文言を重視する考え方なのかなと個人的には理解しています(間違っているかもしれません)。

*4:学界からの評価については、The Wall Street Journal "Legal Community Reacts to the Nomination" (last updated 2017/1/31, last visited 2017/2/9).

*5:

*6:ちなみにゴーサッチは、最近話題になっている大統領令に対する連邦裁判所の判決に関するトランプ大統領の発言について、昨日、民主党議員と会談した際に「失望を呼び、士気をくじく」と批判したと伝えられています。共同通信米最高裁判事候補が大統領批判 司法界の『士気くじく』」(2017年2月9日更新・確認)、ロイター「米最高裁判事指名のゴーサッチ氏、大統領令めぐりトランプ氏批判」(2017年2月9日更新・確認)。たしかにトランプ大統領のTwitterでの放言にはすごいものがあります。まとめとしては、Brennan Center for Justice "In His Own Words: The President's Attacks on the Courts" (last updated 2017/2/8, last visited 2017/2/9). 特に印象的なのは下記の「いわゆる裁判官」発言ですが、これに対するアダム・シフ下院議員のツイートは大変皮肉が効いています。

*7:このリストの作成にはヘリテージ財団のジョン・マルコムが関わっていたとされています。Politico "The man who picked the next Supreme Court justice" (last updated 2017/1/30. last visited 2017/2/9).

*8:以前の投稿「裁判官選任(5) アメリカ連邦最高裁判所の場合」参照。SlateのAmicusポッドキャストに出演していた、スカリアのクラークを務めたウィリアム・ジェイ氏もこの点に言及していました。

*9:SCOTUSblog "Judge Neil Gorsuch - Colorado native and Washinton, D.C., veteran" (last updated 2017/1/30, last visited 2017/2/9).

*10:Reuters, op. cit.

*11:知識がなくて恐縮ですが、米国聖公会という宗派で、コロラド州ボルダーのSt. John's Episcopal Churchというところに所属しているそうです。Washington Postによると、リベラルな教会とのこと。Washington Post "Neil Gorsuch belongs to a notably liberal church — and would be the first Protestant on the Court in years" (last updated 2017/2/1, last visited 2017/2/9).

*12:The Wall Street Journal "Judge Gorsuch: In His Own Words" (last updated 2017/1/31, last visited 2017/2/9), Politico "5 key cases to understanding Neil Gorsuch" (last updated 2017/1/31, last visited 2017/2/9).

*13:Law.com "Trump Chooses Neil Gorsuch, Ivy League Conservative, for Supreme Court" (last updated 2017/1/31, last visited 2017/2/9).

*14:The Marshall Project "Neil Gorsuch: Scalia Without the Scowl" (last updated 2017/1/31, last visited 2017/2/9).

*15:以前の投稿「ギンズバーグ判事のトランプ批判」注2参照。現在、連邦最高裁保守系とリベラル系が4対4の状況で、リベラル派とされる中でもギンズバーグ判事やブライヤー判事はすでに高齢ですが、当然、あと4年は石にしがみついてでも留まらないといけません。